暗記法

画像
 数年前、京都にいる弟を訪ねたついでに京都見物をした。苔寺を見学したときの事である。お坊さんが私たち観光客に寺の中や庭を案内してくれたあと、「さあ皆さん一緒にご唱和しましょう」と言うや、お経を唱え始めた。

 お経などまったく分からない私たちがぽかんとしている中、観光客の中にも大きな声でお坊さんと一緒にお経を唱えている人がいた。このことが私のプライドに火をつけた。よし、オレもお経を覚えようと一念発起、藤沢へ戻るとすぐに般若心経の本とカセットテープを買いそろえた。それからというもの、般若心経に関する知識を深めるため数冊の本を読み、車の中では何度も何度もテープを聴いた。
 ある日、例によってボリュームを大きくして般若心経を聴きながら高速道路を走行していた。料金所に差しかかったとき、不覚にもテープを消し忘れて窓を開けてしまった。途端、まわりに「カンジーザイボーサツー・・・」と大音響がひびき渡り、料金所の係員からも、渋滞で列を作っていたドライバー諸氏からも、異様な目で見られた。ついでに助手席に座っていた女房からは「はずかしいからやめて!」と怒りの声が。
 この日以来、車の中で般若心経のテープを流すことを禁止されてしまった。しかし、さいわいこの頃には既にほぼ暗記し終えていた。
 以上は、私の暗記法の紹介である。声を出して読み、聞くことのほかには、もっぱら紙に書いた。英単語などは、広告の裏紙に何度も何度も書いて覚えた。
 一言で「暗記」といっても、覚えようと思ってすぐに覚えられるものではない。スタンダールの小説『赤と黒』の主人公ジュリアン・ソレルは、ものすごい記憶力の持ち主だったが、現実にはそんな人間はいない。
 あることを暗記しようと思えば、まずは興味をもつことだと思う。例えば歴史である。興味があれば、自然と頭に入ってくる。歴史に興味を持つには、教科書ではダメである。あんなつまらないものを読んで歴史への興味に目覚める人はいないだろう。私のおすすめは司馬遼太郎さんの小説である。私は司馬遼太郎さんの書いたものはほとんど読んだ。司馬さんの本との出会いがなければ、私の中に、これほどまでに歴史の知識が備わっていなかったに違いない。テレビドラマもいいだろう。多少史実と違っても、興味を持てれば良い。
 次に必要なことは、覚えようとする意欲である。『古代への情熱』の著者であるシュリーマンは、外国語をマスターするにあたり、意味が分からなくても、とにかく声を出して読んだそうだ。何度も読んでいるうちに、その内容が分かってきたという。このような暗記法はシュリーマンほどの天才にして初めて出来ることかもしれないが、未知の言葉を理解しようとする意欲がなければ出来ることではない。あの一見無味乾燥に見える円周率も、覚えようとする意欲があれば、結構覚えられるものである。
 年号や元素の周期律表などは、語呂合わせで覚えるのも一つの方法である。例えば、「なくよ(794)うぐいす平安京」「水兵離別バックの舟(H,He,Li,Be,B,C,N,O,F,Ne)」といった具合である。しかし、語呂合わせだけで基礎知識がなければとんでもない覚え方になるので要注意である。本当かどうか定かではないが、ガッツ石松氏は鎌倉幕府の成立を「ヨイクニツクロウカマクラバクフ」で、4192年と覚えていたそうだ。
 いずれにしても、記憶法にはそれなりの努力がいる。昨今の女子中学生のように、マーカーでべたべた色を塗りまくるだけでは覚えられるわけがない。ついでながら、「年を取ったら物忘れが激しくなる」とか、「年を取ったらなかなか覚えられない」などと言う年寄りがいるが、そんなことはない。興味と意欲があれば、いくつになっても覚えられるし、一度覚えたものはそう簡単には忘れないものだ。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック