資本主義の崩壊

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 二十世紀後半、社会主義が崩壊した。1989年のベルリンの壁崩壊から始まり、1991年のソ連邦崩壊への道である。そして今、勝ったかに思われた資本主義も崩壊するのではないか、そんな世の中になってきているように思われる。

 かつて「大きいことはいいことだ」というコマーシャルがあった。確か、山本直純さんが空の上で指揮棒を振りながら歌っていた、あのコマーシャルである。バブル時代のことだったと思う。それが否定され、軽薄短小が美徳とされた。そして今、「安いが一番!」のコマーシャルが流れ、「安さ世界一」だの「百円ショップ」だのと、安ければそれでいいとの風潮がはびこっている。
 資本主義社会とは、基本的に競争社会である。競争に勝つにはどうすればいいか、世の経営者はそのことばかりを考えている。曰く技術革新、曰く顧客満足。そして、究極的選択は「安売り」に行き着く。競合他社よりも少しでも安い商品を開発し、売ろうとする。
 しかし、これが本当に経済を発展させ、顧客を満足させ、ひいては自社の勝利につながるのであろうか。私は、昨今の安売り競争は最終的には経済そのものを破壊に導くものだと思う。そもそも「安いから買いましょう」という消費者の発想は、貧乏人の発想である。「貧乏人の安物買い」とは言い得て妙である。丈夫で壊れにくく、高級で、しかも安いという商品など、そうあるものではない。
 企業の側でも、本当にいいものを消費者に提供しようと思えば、どうしても譲れない線はあるはずである。その一線を踏み越えるとすれば、必ずどこかにひずみがくる。マンション偽装問題はその最たるものである。他社に勝ちたい、自分が儲かりたい、そのような発想の行き着く先は、ごまかし以外にはない。ここまでやらなければ企業が成り立たないのであれば、それは資本主義という経済構造そのものがもはや成り立たなくなったと言うことである。
 一弱小塾の経営者がずいぶんと大層なことを書いてしまった。実は、これからが本番、塾業界にもこれと似通った風潮が出てきているのである。
 今やどこの塾でも無料体験授業を行っている。定員の二倍以上もの入塾希望者をテストで不合格にしていた昔ならいざ知らず、生徒獲得競争が激しい今では、無料体験はごくあたりまえのものとなった。それはいい。しかし、体験期間が一ヶ月となったらどうだろう。夏期講習会期間全部になったらどうだろう。果ては、三年生と四年生の二年間は無料を打ち出す塾まで現れた。
 長期間にわたって無料でサービスを施す、その経費はどこから出るのか。正規に学費を払っている塾生の親が負担する学費である。このような塾の生徒の親は他人の分まで学費を支払っていることになる。だから、この人たちはある意味被害者と言える。しかし、本当の被害者は、実は無料で長期間体験している生徒たちなのである。
 塾ジプシーと呼ばれる子どもたちがいる。無料体験塾を渡り歩いている(渡り歩かされている)子どもたちのことである。A塾の無料体験期間が終われば、次はB塾へ、と転々とする。先の三年生と四年生の二年間は無料塾の次には、五年生は無料を打ち出す塾が出るかもしれない。すると、ジプシーはそちらに流れるだろう。
 塾にはそれぞれ独自のカリキュラムがある。教材も違う。教師との相性もある。それらを無視してタダの塾を転々としても学力がつくわけがない。結局は徒労に終わるのである。
 塾ですらこうである。まして、消費生活全般は更にすさまじいことだろう。今の日本人が一番弱い言葉は「安い」という言葉かもしれない。本当に安くていいものなら良いが、何でも安ければいいといって、安いものばかりに飛びついていると、結局は大損することになる。
 資本主義の崩壊などと、大仰なテーマを考えていて、もうひとつ、私にはどうしてもおかしいと思われることに思い当たった。昨今の投資ブームである。今や、老いも若きも、何と小学生までもがパソコンに向かって株の売買をやっているそうだ。
 週刊誌やテレビでは、株取引の特集を組んだり、株で儲かった人たちを取り上げたりして、投資ブームを煽っているかのような風潮も見られる。私などは、このようなものには全く無関心なのだが、そうそう甘いものではないくらいのことは分かる。儲かる人がいれば損をする人もいるはずなのに、一攫千金を夢みて、儲けることだけに目を奪われている人たちが多いのではなかろうか。
 そもそも株式とは、会社設立に際して、その会社を育て上げ、バックアップする目的で購入するもののはずだ。しかるに今はそんな気持ちはこれっぽっちもない。自分の買った株が高くなるかどうか、売りのタイミングはいつか、そんなことばかりを考えている。そこには資本主義の精神など微塵もない。
 こんな欲たかりどもが自分の儲けだけのために売ったり買ったりしている世の中では、いずれ近い将来、恐慌がやってくるのではないかと心配してしまう。
 私は小学生と中学生に社会科も教えている。社会科の授業中、何かの弾みに投資の話になった。私が今の投資ブームを憂いて、生徒たちに「人間、額に汗を流して働くことが尊いのだよ」と話したところ、生徒から「先生は汗を流してないよ」と言われてしまった。このときは冷や汗が出た。

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